2012年09月02日

公正証書遺言と津波

  先日,東日本大震災の被害者らからの法律相談データ(1000件ほど)をまとめるという作業をした。

  「両親が海に流され・・」「甥夫婦と子供が家ごと海に流された…」「新しく買った土地が海に沈んだ…」
  そんな悲劇的な相談の連続に改めて震災の悲惨さを思い知った。

  弁護士を続けていると,悲劇的な相談を受けても,同調しながらも一線を画し,その悲劇を自分の心に伝染させないようにできるようになる。
  それでも,1000件続けて,あまりに悲劇的な相談の内容を読んでいると,何ともいえないつらい気持ちになっていった。

  その中で驚いたのが,「遺言が海に流された」という相談が多かったことである。
  弁護士の回答は
  公正証書遺言であれば,公証人役場に保管されているから安心である。
  自筆証書遺言であれば,もうどうしようもない。
  というものである。

  公正証書遺言は,自筆証書遺言と異なり公証人役場が預かってくれるので紛失のおそれが少ない。
  そんなことを公正証書遺言作成のメリットとして,説明することはよくある。
  しかし,実際問題として,遺言を紛失することなど少ないであろうと思っていた。
  
  世の中何があるか分からないものだ。
  「死」という悲劇のために遺言を残すにもかかわらず,そのときに遺言がなくなってしまっていてはどうしようもない。

  多少の費用はかかるが,改めて公正証書遺言を作成する重要さを感じた。
  公正証書遺言は海に流されることはない。 

  (そう思ったが,いやいや今回のような大震災を経験すると,公証人役場自体や写し2通のすべてが海に流されてしまう可能性がないとはいえないと思った。そうすると,写し2通はできる限り,離れたところで保管しておくのが安全であろう)

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posted by 内田清隆 at 15:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2012年02月01日

死亡前に贈与を受けた預貯金の払戻しの受け方

 ある身寄りのない老人が,仲の良い友人Aさんに,
「私はもう先が長くない,もしものことがあったら,これで葬儀をして,墓石の一つでも立ててくれ,残った分があれば,あなたにあげるので」
と言って通帳と判こを渡した。

 その老人が亡くなったあと,Aさんは,銀行にお金をおろしに向かった。
 ところが,「相続人ではないので,お金をおろすことができません」と言われお金をおろすことができなかった。
 どうすればいいのだろうか?

 簡単な話ではなかった。
 預金の贈与を受けたとして,銀行相手に,預金額の払戻しを請求する訴訟をおこせばよいとも考えた。
 しかし,預貯金の贈与(債権譲渡)には,譲渡人がハンコを押した書面が必要だ。
 しかし,譲渡人は,この世にはいない…,相続人さえいない…。

 そこで,
・譲渡人の代わりとして裁判所に相続財産管理人を選任してもらって,
・半年以上かけて相続人が本当にいないのかを捜索してもらって,
・相続財産管理人に対してハンコを押すよう求める訴訟をして,
・その書面をもって銀行に請求して…。
 1年以上の時間と,相当の費用がかかってしまった。

 現金を渡す代わりに,預金通帳と判こを渡すといいうことは,世の中にはままある。
 しかし,後々大変なことになるかもしれないことを知っておくべきだ。
 幸いにして,Aさんは,墓をたてることができたが,預貯金が少なければ,墓がたたなくなるところだったのだ。

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posted by 内田清隆 at 20:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2011年09月07日

1000万円の赤い羽根共同募金

 どうも最初からおかしかった。

 相続人は,父と子。判断能力を失った父の後見人として,遺産分割の調停に関わった件である。

 話合いをしようとしても,「親戚の法事」「入院することになった」「どうしても抜けられない仕事」などと言われ会うことができず,1年も話合いが進まない。
 そんなに突然,会えくなる事情が頻発するとはいかにも,おかしい。
 そう考え,やむなく,裁判所の調停で,話を進めることになった。

 裁判所の調停では,その子は,仕事がなく,生活が非常に苦しいと事情を説明し,大目に相続したいと主張していた。

 そのような中,衝撃的な事実が判明した。
 父の方は,3年ほど前から,痴呆症となり施設に入り,子が父の通帳の管理をしてきた。
 ところが,その3年の間に,父の通帳から何と2000万円もの預貯金がなくなっているのである。

 一度に1000万円ものお金が下されている日もあった。
 施設代や生活費は,障害年金で賄われる。
 まさに,使途不明金である。
 当然,何に使ったのかを問い詰められた。そして,その回答は
「赤い羽根募金に寄付をした」
というものであった。
 仕事がなく,生活費が苦しい人間が,1000万円を寄付!? 
 そんな良い人間がいるのであろうか? 

 真実は,藪の中に包まれながら,1200万円を5万円ずつ返済するということで調停は終了した。
 200回払いの40年分割。払い終わるときは,父は,100歳を超える…。

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2010年08月26日

亡くなって分かった妻の秘密

 「信じられない!」、弁護士業を続けていくとそんな事態によく遭遇する。

 A氏は、妻B子が亡くなられたため妻名義の戸籍を取り寄せることになった。
 初めて妻の戸籍を見てA氏は衝撃的な事実を知ることになる。
 73歳で亡くなったとして葬儀までした妻B子、実の年齢はなんと85歳だったのだ。
  結婚して40年以上妻はずっと一回り12歳も年齢をさばよんでいたのである。
 73歳と85歳の違いでも普通気付きそうだ。
 しかも結婚時は40過ぎの女性を30歳だと思っていたというのだ。
 ちょっと信じられない話である。

 話はここで終わらない。
  相続人として預貯金をおろすにはB子の生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要となる。
 それを取り寄せたところさらに驚くべき事実が判明した。
 B子はA氏と結婚する前に別の男性と結婚し、3人の子を産んでいたのである。

 長年だまされ続けてきたA氏はどんな思いだったのだろうか。
 A氏は、ニコニコしながら、B子が結婚前に産んだ3人の子を苦労して見つけ平等に相続させることを決意したが、内心非常につらかっただろうと思う。

 思えばB子もつらかったのかもしれない。

  信じられない、そして悲しい事件であった。

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posted by 内田清隆 at 14:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年08月19日

隠居による家督相続は廃止されています 

 初めて戸籍に「隠居」(いんきょ)と書かれているのを見て驚いたことがある。
 
 「隠居」は,戦前までは立派な法律用語だったのだ。
 生前に全財産を長男などに相続させて戸主の地位も譲ってしまうこと,つまり家督相続を行い隠退することを「隠居」と呼んでいた。

 実は,この隠居による家督相続という制度,日本人の心の中では結構生き続けている。
 というのも,色々な人から,「そろそろ隠居して,長男に家督を相続させたいんだけどどうしたらいいかなあ」と相談されたことがあるからだ。
 
 実は,これが意外と大変である。
 法的な隠居制度が廃止された現在,生前に,長男に財産を相続させるには「生前贈与」によるしかない。
 しかし,その場合,多額の贈与税を支払わなくてはならない場合がある。
 また,次男や三男にも「遺留分」があるため,全財産を長男に相続させてしまうわけにもいかず,遺留分を計算しながら手続きを進めていかないといけないからだ。

 ある居酒屋で近くに座った中小企業の会長さんが「既に長男に家督相続をさせているから,老後は安心だ。」と話されるのを聞いた。
 「それは良かったですね〜」などと詳しい話を聞いてみると,その会長さんは,いまだに隠居による家督相続という制度があり,自分が隠居して全財産を長男に譲ったと家族の前で言えば,それで手続きは終了したと思っていた。
 どうも,その会長さんの家族も同じように思っているようであった。
 ついつい弁護士として黙っておられず,隠居による家督相続という制度は廃止されているなどと説明してしまったが,恐らくは,法律が出てくることもなく,長男が問題なく相続するのであろうと思わされた。

 法律は法律としてあるが,そんなものを無視して隠居による家督相続という制度は生き残っていると痛感させられた。

ただ怖いのは,そのような人たちの間であっても,いざもめた場合には現在の法律が適用されるということだ。
 その矛盾によって大きなトラブルが発生しないことを祈りたい。


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posted by 内田清隆 at 07:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年08月13日

しっかり者の次男は「争族」のタネ

 石川県特有の話であろうか?

 私が経験した,遺産分割がもめたという案件では,「しっかり者の次男」が家を守ってきたというパターンが非常に多い。
 へたをすると半分近くがそのパターンかもしれない。

 長男は,ある程度の年齢で家を出ていってしまい,自由気ままに生活を送ってきた。
 一方の次男は,親と同居して,親の家業を支えて生活をしてきた。
 そのようなケースにおいて親が亡くなったときに遺産分割でもめる,いわゆる「争族」となるケースが非常に多いのだ。

 長男が親と同居し,親の家業を手伝ってきた場合には,長男が,親の家や財産の多くを相続する場合が多いであろう。
 そうなったとしても,他の兄弟が文句を言う場合は少なく,遺産分割でもめることは余りない。

 ところが,長男が家を出ていて,しっかり者の次男が家を守ってきた場合は事情が違う。
 そのような場合には,次男は,「長男は何もしていない,自分が跡取りだ!」として,親の家や財産を相続しようする。
 一方の長男は,「長男の自分を無視するな!」として,きちんと相続しようとする。
 他の兄弟も長男についたり,次男についたりして,もめるというパターンが非常に多いのだ。

 石川県では戦前の家父長制の意識が強く残っているからなのかもしれない。
 いずれにせよ,しっかり者の次男が家を継いでいる場合は相続でもめる可能性が高いのは確かだ。
 親としては,きちんとした遺言を作成しておかないと,相続でもめる可能性が高いことを考えておく必要があるだろう。

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posted by 内田清隆 at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年07月23日

終らない相続紛争〜遺言作成の重要性

 相続紛争の最長記録はいったい何年であろう。10年以上続いているケースは少なくないはずである。
 途中から関わった事件であるが,「いつか終わりが来るのだろうか?」と絶望的な気持ちになっている事件がある。

 母親に続いて父親が亡くなり,3人の男兄弟で,遺産分割をめぐって家庭裁判所で調停が開かれていた。
 争点も多く,相続財産も莫大であったため,調停に時間がかかることは最初から予想された。
 
 1年ぐらい調停が続いた後で,父親の親,つまり祖父の相続が問題となった。
 祖父の預貯金を長男がおろし受け取ったようなのだが,本来その預貯金は,父親の相続財産であり,今回の調停で遺産分割の対象になるという主張がなされたのである。
 祖父のもっていた預貯金を長男が不当に受け取ったかどうかは,父親の遺産分割調停とは別個の問題である。
 そのため,一度調停を中断し,それについて,別に通常の民事訴訟として,地方裁判所で争われることになった。
 地方裁判所では長男が勝訴したが,控訴審である高等裁判所では長男は逆転敗訴した。
 結局3年以上かかって,最高裁まで争われ,長男の敗訴が確定した。

 それにより事件は再び家庭裁判所に戻され,長男がおろした祖父名義の預貯金も相続財産であるという前提で調停が復活されるはずであった。
 ところが,祖父には,父親以外にも兄弟がいた。
 その兄弟は亡くなられていたため,その兄弟の子3名が上記裁判を知り,長男に対して,自分にも遺産として分け前をよこすよう請求してきたのだ。
 そこで,その問題が解決するまで,再び調停は中断された。結局,それについては,話合いで解決するにいたったが,話合いには1年以上も時間がかかった。

 既に,相続開始後,5年以上が経過し,ようやく調停が再開された。

 そのときである。

 長男が突然,病気で急死してしまった。
 しかも,長男には4人の子がいたのだが,1人は愛人の子であり,どこにいるのかも分からないという厄介な問題があった。
 そこで,色々と努力してその子の所在を探したが結局見つからなかった。そのため,利害関係のない弁護士が不在者財産管理人として選任されることになり,その管理人が愛人の子の代理人として遺産分割に加わることになった。

 事件は混迷を続ける
 その愛人の子を探す手続きに時間をかけている間に,長男の子らの間でけんかが始まってしまい,その間でも遺産分割をめぐる調停が始まってしまったのだ。

 更に問題が起こる。
 そうこうしている間に,三男が入院してしまったのだ。
 三男は弁護士をつけずに,調停に参加していたため,本人が出席しないと調停が進まない。
 しかも,三男は重い病気で,三男が亡くなられると,その相続人もまた3名いる・・・・。

 既に,相続開始から10年以上が経過してしまっている。
にもかかわらず,いまだ解決の気配さえ全くない。

 教訓  
 少しでも資産を持っている人は必ず遺言を作れ!
 そうしないと相続人は大変なことになる!


 遺言さえ作成していれば,10年以上も続くこの厄介な紛争は生じなかっただろう。遺言を作成しなかった落ち度は大きい。

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posted by 内田清隆 at 08:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年05月30日

開かれなかった遺言

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】 
 A氏が亡くなられたのを知ったのは、北國新聞のお悔やみ欄であった。

 A氏との生前の約束通り、電話をかけ奥さんに遺言書を手渡した。そこで,発せられたのは意外な言葉であった。
 
 「開けないで捨ててもいいんですか?」

 聞くと、既に相続人である奥さんと子ども達で遺産分割についての協議はできている。遺言を開けても、もめるだけだという。

 奥さんが勝手に遺言を開けないで捨てることは当然,許されないし,そんなことをすれば一切の相続権を失う。また,遺言書は,発見した場合には,すぐに家庭裁判所に持っていき「検認」という手続きを受けなければいけない。違反すれば5万円以下の過料の制裁もある。
 しかし,相続人全員が同意していたら?法律には書いていないが,それはそれで許されることなのかもしれないと思い返答に悩んでしまった。

 結局、A氏がどのような気持ちで遺言を書いたのかと、その気持ちを尊重してほしいこと,家庭裁判所で検認の手続きを受けないと5万円以下の過料となる可能性があることだけを伝え、相続人全員の同意のもと遺言を開けないことが許されるのかについては回答をしなかった。

 遺言が開かれれば私が遺言執行者になるはずであった。
 しかし,いまだに私は遺言執行者になっていない。

 自分の応対は正しかったのか。いまだに悩んでいるところだ。

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2010年05月20日

心配性の遺言者

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】
 将来何が起こるかわからない。だから,万が一のことをも考えて,遺言を作成すべきであると,弁護士は常々アドバイスする。実際に,予想もしなかったできごとが発生し,相続において,大変な問題となることも少なくないのだ。
 ところが,そんな弁護士の目から見ても,心配しすぎなのではないかと思う遺言を作成したことがあった。

 遺言者は91歳で,入院中であった。娘に預貯金を,息子に不動産を相続させるという遺言を希望していた。

 遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘や息子が亡くなったらどうなるのですか?」
 91歳の遺言者より先に娘や息子がなくなる可能性は少ない。しかし,心配するに越したことはないので,その場合にどうするのかを遺言することにした。

 さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘と息子が二人とも亡くなったらどうなるのですか?」
 そんなことはさすがにないだろうと思ったが,万が一を心配するのが弁護士だ。その場合には,4人の孫の内,2人が不動産を,もう2人が預貯金を相続するという内容の遺言をすることにした。

 さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘も息子も孫の一人も亡くなったらどうなるのですか?」
 それはさすがに心配しすぎだと思ったが,心配しすぎで悪いことはないだろうと考え,その場合にどうするのかも遺言することにした。

さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘と息子と孫4人全員が亡くなったらどうなるのですか?」


それは心配しすぎでは・・・・・・・・・・。

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2010年05月19日

遺留分を侵害する遺言

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】
 一代で従業員100名ほどの会社を作り上げたA氏であったが一つ悩みがあった。社長である長男中心の金沢本社と専務である長女の夫中心の福井支店が激しく対立をしており,事業承継が円滑にいかないのである。そのA氏から,二人が相続争いをせず,会社も上手く継続するような遺言を作成したいという相談を受けた。
 A氏には,さらに会社経営に関わっていない次女と三女がいた。

 A氏から相談を受けて,すぐに私が考えたのが,「会社分割」をしてしまう方法であった。会社法改正で手続きとしては簡単になった。しかし,A氏は自分が築き上げた会社を二つに割ることはどうしても避けたいし,分割したら生き残っていくだけの体力が会社にはないと言う。

 相続財産の大部分は会社の株式,それ以外に1500万円ほどの預貯金があった。まずは,相続税評価基準に基づき株式の価格を算定すると8000万円以上の評価となった。相続税対策を進めなければいけないところであるが,残念ながらその時間はなかった。

 会社経営と関係していない次女,三女にとって,誰かに売れるわけでもない中小企業の株式を相続することには何の価値もない。しかも,次女,三女にも株式を相続させれば,これ以上に会社がもめる可能性がある。しかしながら,会社の株式以外に財産がほとんどなく,これを次女・三女に相続させないとすると遺留分を侵害してしまう恐れがあるという困った状態であった。

 最終的には,次女・三女に関しては,思い切って遺留分を侵害する遺言を作成することにした。弁護士が遺言執行者になり,きちんと説明をすれば,現金以外に株式の取得を求めることはないだろうという読みだ。
 幸いにして,この読みは当たり,遺留分を侵害されている次女や三女から後々文句が出ることはなかった。

 長男と長女の夫の問題に関しては,A氏と何度も相談を重ねたあげく長男には株式の60%,長女には少数株主権を越える40%の株式と現金を少々を相続させることにした。
 残念ながら,うまくいったとはいいがたい。長男と長女は納得せず,色々な争いを起こし,長男と長女の関係は,いっそう悪化してしまった。
 それでも,何とか会社は,分割せずに一つで頑張っている。それを見てA氏は天国で満足しているだろう。遺言を作っていなければもっとずっと大変なことになっていた。そう思えば,例え息子と娘のケンカをおさめることができなくても,A氏は,遺言を作成してよかったのだろうと思う。
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posted by 内田清隆 at 07:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年05月18日

夕日のあたる病院で

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされてます】
 ある朝、病院から電話があった。「末期ガンで、明日どうなるとも分からない、すぐ遺言を作りたい」という知り合いの会社経営者からの電話であった。公証人に来てもらうのでは間に合わないかもしれない、そう考えて自筆証書遺言でいくことにした。

 長男には会社を譲るが借金を返済していってほしい、次男には不動産を譲るが残される妻の居住権は確保してほしい、妻には預貯金を譲るという複雑な内容である。
 何度も電話をしながら作成していくと気がついたら夕方になっていた。遺言案が完成したら、すぐに病院へ向かい、夕日に照らされるベッドの横で遺言作成を開始した。

  自筆証書遺言では書き間違いを訂正するにも厳しいルールがある。ルール違反の訂正をすれば遺言は無効になりかねない。そのためできるだけ訂正をしないよう、書き間違えたら最初から書き直すということで始めた。病気で弱っているせいであろう、何度も書き間違いをしては最初から書き直しとなり、最後まで書きあげたたころにはもう辺りは真っ暗になっていた。
 最後に見直していると、一つだけ誤字があるのに気付いた。体力的にもう一から書き直してもらえない、そう考えこの点だけはルールに従い訂正を加え完成させた。

 結局,完成した遺言書を見ながら満足げな笑顔でベッドで座っている姿が最後に目をした姿になってしまった。

 亡くなられたのはその二日後であった。

 幸いにして,遺産争いがおきず,遺言者の遺志は実現できた。それがせめてもの救いである。

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posted by 内田清隆 at 11:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から