2011年12月23日

遺留分と債務の関係

 Xが子Aに遺言で全財産を相続させた。
 相続人は子Aと子Bである。
 相続財産は現金が1億2000万円,債務(借金)が1憶円である。
 さて,BはAに対して,幾らの遺留分減殺請求ができるであろうか。

@の考えは,シンプルである。
 Bの遺留分は全財産の4分の1である。
 よって(1億2000万円−1憶円)×4分の1=500万円という考えである。

Aの考えは,複雑である。
 以前のブログで説明したが,債務(借金)は,遺言の対象にならず,当然にAとBと2分の1ずつに分けられる。
 つまり,法的には,1憶2000万円はAが相続し,借金は,5000万円ずつAとBとが負担している状況なのである。
 そのため,遺留分減殺請求において,Bが引き継いだ借金5000万円分を考慮に入れるべきだという考えもある。

 この問題について,平成21年3月24日の最高裁判決では,下記のように@説を支持して,借金の存在は遺留分の計算において考慮すべきでないという立場を明らかにした。
 
 つまり,「全財産の相続を受けたのであれば借金もAが払うべきであり,法律に従いBが借金を返済することになったら,そのときになってBはAにその分の支払を請求できる」ということになったわけだ。

 理論的には疑問もあるのだが,実際上は,妥当な結論であろう。

           記
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務 もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて 承継することになると解するのが相当である。・・・相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定において は,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。

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posted by 内田清隆 at 12:55| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年11月01日

生前贈与と遺留分2−遺留分減殺請求ができなくなる場合

 前回述べたように,原則として,親が全財産を別の兄弟に贈与するのをやめささることはできない。しかし,親が死亡後は,その兄弟に対して,遺留分減殺請求ができるようになるというのが原則である。

 しかし,必ず遺留分減殺請求ができるわけではない。
 生前贈与後1年が経過した場合には,その贈与が,
婚姻,養子縁組のため又は生計の資本として贈与であった場合(民法903,1044条)
当事者双方が遺遺留権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合(民法1030条)
にしか遺留分減殺請求ができなくなってしまうのだ。

 例えば,相当の高齢で,全財産を長男に贈与してしまえば,次男の遺留分が侵害されることは予想がつくであろうからにあたる。
 しかし,例えば,45歳ぐらいの親が長男に全財産300万円を贈与したとしても,親がまた稼いで財産を築く可能性は十分にあり,次男の遺留分が侵害されると予想はつかないため,にあたらないといったふうになる。
 そのような場合には,の結婚のための贈与や,生活費としての贈与以外については,遺留分減殺請求ができなくなってしまうということである。

 なかなか複雑である。

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posted by 内田清隆 at 19:31| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年10月25日

生前贈与と遺留分1−生前贈与をやめさせられるか?

親が財産を別の兄弟に贈与するのをやめさせることはできないか。
そんな相談を受けることが多い。

 例えば,親が長男に丸めこまれて全財産1億円を長男に生前贈与してしまった。
 そこで,次男が,長男に対して,「自分だけずるい!」と言って,一定額の支払を要求できないかといった相談である。

 次男は,そのような要求をすることは可能であろうか?

 基本的には無理である。
 親が認知症で判断能力がないなどといった特別の事情がない限り,親が自分の財産をどのように処分するのかは,親の自由である。
 したがって,長男に全額を生前贈与したとしても,次男が文句を言う権利はない。

 ところが,親が死亡すると状況は変わってくる。
 遺産が1億円あったとすれば,次男は,遺留分として,1憶円×4分の1=2500万円だけは最低相続する権利がある。そして,親も,この遺留分については自由にできない。
 にもかかわらず,生前に贈与してしまえば,親が,次男の遺留分を自由にできることになってしまってはおかしい。

 そのため法律は,他の相続人に生前贈与した分についても,遺留分の計算においては,遺産とみなすことにしているのである。
 
 よって,上記の事例において,次男は,親の生前は,何の文句も言うことはできない。
 しかし,全額を長男に生前贈与した後にすぐに親が死亡すれば,次男は,長男に対して,2500万円を遺留分として支払うよう請求できるようになるのである。
 続 く

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posted by 内田清隆 at 08:09| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年09月07日

1000万円の赤い羽根共同募金

 どうも最初からおかしかった。

 相続人は,父と子。判断能力を失った父の後見人として,遺産分割の調停に関わった件である。

 話合いをしようとしても,「親戚の法事」「入院することになった」「どうしても抜けられない仕事」などと言われ会うことができず,1年も話合いが進まない。
 そんなに突然,会えくなる事情が頻発するとはいかにも,おかしい。
 そう考え,やむなく,裁判所の調停で,話を進めることになった。

 裁判所の調停では,その子は,仕事がなく,生活が非常に苦しいと事情を説明し,大目に相続したいと主張していた。

 そのような中,衝撃的な事実が判明した。
 父の方は,3年ほど前から,痴呆症となり施設に入り,子が父の通帳の管理をしてきた。
 ところが,その3年の間に,父の通帳から何と2000万円もの預貯金がなくなっているのである。

 一度に1000万円ものお金が下されている日もあった。
 施設代や生活費は,障害年金で賄われる。
 まさに,使途不明金である。
 当然,何に使ったのかを問い詰められた。そして,その回答は
「赤い羽根募金に寄付をした」
というものであった。
 仕事がなく,生活費が苦しい人間が,1000万円を寄付!? 
 そんな良い人間がいるのであろうか? 

 真実は,藪の中に包まれながら,1200万円を5万円ずつ返済するということで調停は終了した。
 200回払いの40年分割。払い終わるときは,父は,100歳を超える…。

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】

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posted by 内田清隆 at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2011年08月04日

預貯金の解約と相続放棄

 突然に父が死亡した。
 知合いから,早くお金を下さないと面倒になると言われたため,預貯金を解約した。
 ところが,その後になって,父がたくさんの借金を抱えていることが分かった。
 そこで,相続放棄をしようとしたのだが,銀行から,預貯金を解約してしまった後は,相続放棄はできないと言われてしまった。
  はたして,銀行の言うことは本当だろうか。

 多分,間違いである。
 以前のブログでも書いたが,「単純承認」といい相続放棄をする前に遺産の一部を処分すると、相続を承認したこととなり、以後、相続放棄ができなくなる(民法921条1号)。
 そして,預貯金の解約が「処分」にあたないとはいいきれず,それにより相続放棄できなくなる可能性はある。
 だから,預貯金を安易に解約しない方がよいのである。

 ところが,この点,意外に裁判所は優しいのである。
 大阪高等裁判所平成14年7月3日決定は,被相続人の死後,1000万円の預貯金を解約し,葬儀費や墓石の購入費として400万円ほどを使ってしまったという事案である。
 裁判所は,以下のように述べて,その事案で,相続放棄を認めた。
  葬儀は,人生最後の儀式として執り行われるものであり,社会的儀式として必要性が高いものである。
  相続財産があるにもかかわらず,これを使用することが許されず,相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば,むしろ非常識な結果といわざるを得ない。
  一家の中心である 夫ないし父親が死亡した場合に,その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり,墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり,預貯金等の被相続人の財産が残された場合で,相続債務があることが分からない場合に,遺族がこれを利用することも自然な行動である。
  よって,それらに使ったことは,「法定単純承認たる『相続財産の処分』(民法921条1号)に当たるとは断定できない」


 裁判所は,法律がどうこうよりも,「夫が死んだら葬儀費用と墓石代ぐらいその預金から出すのは常識だろ!」ということで相続放棄を認めているのだ。
 最高裁の判例ではないので,どこまで適用があるのかは怪しいところではある。
 しかし,1000万円を下して,400万円を使ってしまっても相続放棄が認められたのだから,少なくとも預貯金を解約しても,使ってしまっていなければ,相続放棄は認められるのだろう。

 いずれにしても,はっきりしてほしいところではあるのだが・・・。

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posted by 内田清隆 at 13:20| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年06月10日

信託による後継ぎ遺贈

 配偶者が亡くなった後には,その財産を自分の兄弟に相続させることができるだろうか?

 民法の規定では,子のいない夫婦の夫が死亡した場合,親が既に死亡していれば,全財産は,妻に相続される。
 そして,その後にその妻が死亡した後には,全財産は,その妻の兄弟に相続されることになる。

 では,自分が亡くなった後に,妻が死亡した場合には,妻の兄弟ではなく,自分の兄弟にその財産を相続させるようにできないだろうか?
 あるいは,自分が死亡し,財産を子に相続した後に,その子が死亡した場合には,子の配偶者ではなく,孫にその財産を相続させるようにできないだろうか?

 いわゆる後継ぎ遺贈の問題である。
 以前は,「妻が死亡した後には,その財産は,妻の兄弟ではなく自分の兄弟に相続させる」といった遺言に効力はなく,後継ぎ遺贈は無効であるという見解が有力であった。

 ところが,新信託法により,後継ぎ遺贈型の受益者連続信託が可能となった
 これは受益者が死亡した場合に,他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託である。
 具体的には,妻を第一受益者,自分の兄弟を第二受益者とすることで,事実上の後継ぎ遺贈が可能となるわけだ。

 特に事業経営において活用の余地は大きいだろう。
 自分の亡くなったあとは,会社はどうなっても構わないと思う経営者はいまい。
 自分が亡くなり,その相続人が亡くなった後のことまで考える,それは重要なことだし,受益者連続信託により,それが可能となったというわけだ。

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posted by 内田清隆 at 07:58| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年04月01日

相続放棄したら子供が代襲相続する?兄弟はどうなる?

 相続放棄した場合にも代襲相続になるのだろうか?

 一般に,相続人である子供が親より先に死亡したとしても,「代襲相続」として,その子供の子供(つまり孫)が,相続人となる。
 では,相続人である子供が相続放棄をした場合,その子供(つまり孫)は,代襲相続により相続人となるのだろうか?

 答えは「ならない」である。

 相続放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったことになり、その相続権は次の順位の親族に移る。
 「子」がいなくなれば,つぎは「孫」が代襲相続することになるのではなく,「直系尊属(被相続人の親)」,それがいなければ,次の順位の親族である「被相続人の兄妹」という順番になるのである。

 もっとも被相続人の兄弟には注意が必要だ。
 相続放棄するパターンで一番多いのは,親が多額の借金を抱えて亡くなったケースだ。そんな場合,自分が相続放棄して,自分の子に借金が相続されてしまわないかが,まず心配になるが,そのような心配は無用である。

 しかし,その場合,親の兄弟には,相続放棄をしたということを伝えておいてあげないと,親の兄弟が,多額の借金を相続してしまうことになり得る。

 子が相続放棄すると,親の兄弟も相続放棄をしないといけなくなる場合は多いので,注意が必要なのである。

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posted by 内田清隆 at 16:15| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年02月23日

遺言者より受取人が先に死亡したらどうなる?

 遺言により遺産の受取人とされている者が遺言者より先に死亡したら遺言の効力はどうなるのか?

 「裁判例は分かれており答えはない。非常に困ったものであり,早く決めてもらいたい」という記事を書いたばかりであるが,最高裁の判例がでて,決めてもらうことができた。

 昨日の最高裁平成23年2月22日判決は,以下の通り判示した。

上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

 簡単にいえば,特別のことがない限り,
遺産の受取人が遺言者より先に死亡した場合には,受取人の子が代襲相続することはなく,遺言は無効になる
と決まったわけだ。
 
 それにしてもブログを書くや否や,その結論が変わるとは!
 いまさらながら判例は日々変化しており,油断して古い知識で対応すると大変なことになることを思い知らされた。

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posted by 内田清隆 at 16:21| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2011年01月26日

遺言の受取人が先に死亡したらどうなる?

 Aさんに二人の子,太郎と次郎がいたとしよう。
 Aさんは「太郎に全財産を相続させる」という遺言を残して死亡した。
 ところが,Aさんが亡くなる前に,太郎さんが亡くなっていた!

 そんなとき,誰が相続することになるであろうか?(遺留分は考えない)
 一つの考え方は,太郎さんがいない以上遺言は無効になるというものである。
 もう一つの考え方は,太郎さんの子など太郎さんの相続人がAさんの全財産を相続するというものである。

 どちらが正解であろうか?
 困ったことに答えはない。

 東京高裁の平成11年5月18日の判決では,Aさんの子が相続するということになった。 
 ところが,東京地裁の平成21年11月26日の判決では,遺言は無効であるということになってしまった。(厳密には事案が違うが,いずれにせよ裁判所の見解ははっきりしない)

 遺贈の場合「太郎に○○の土地を与える」という遺言の場合,先に太郎が死んだ場合には,遺言が無効になることは法律で決まっている(民法994条)。
 ところが,「○○に相続させる」という遺言の場合は,法律に決まりがないのである。

 「○○に相続させる」という遺言が一番,一般的な遺言である。
 この場合に,もらうべき人が先に死んだ場合どうなるかが決まっていないというのは非常に困ったものであり,早く決めてもらいたいところだ。

 いずれにせよ,遺言を作成する場合には,そのようなこともあり得ることを念頭に置いておくべきだろう。
 万が一のための遺言なのであるから。

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posted by 内田清隆 at 09:50| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐遺言

2010年12月22日

遺留分減殺対象の財産を選ぶことはできますか?

 被相続人が二人の子,太郎と花子をのこして死亡し,全財産を太郎に相続させるという遺言をのこした。

 この場合,花子は全財産の4分の1に対して遺留分をもつ。そのため,遺留分減殺請求をすることにより,遺産の4分の1だけを相続できる。

 では,遺産が
A町の土地(時価 500万円)
B町の土地(時価 500万円)
C町の土地(時価1000万円)
であったとしよう。

  このとき,花子は遺留分減殺対象の財産を狙い撃ちしてA町の土地を選んで手に入れることができるであろうか?
 あるいはC町の土地に限って遺留分減殺請求をし,その半分の権利を取得することができるであろうか?
答えは,「選ぶことはできない」である。

 遺留分減殺請求は,特定の財産ではなく,全体に対してしかできない。
 そのため,遺留分減殺請求をすると,花子はすべての土地につき4分の1の持ち分を持つことに自動的になり,すべての土地は共有になってしまうのである。

 「共有の土地」というのは,どうにも処分がしづらいため,この結論は不便ではある。
 しかし,共有が不便であるため,いやでも相続人らは話合いをするしかない。
 話合いをしなくてはいけないことは,不便ではあっても,本当はいいことなのかもしれないと思うときもある。

 便利がいいとは限らないのが,人の世である。

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posted by 内田清隆 at 08:12| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続