2010年05月30日

開かれなかった遺言

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】 
 A氏が亡くなられたのを知ったのは、北國新聞のお悔やみ欄であった。

 A氏との生前の約束通り、電話をかけ奥さんに遺言書を手渡した。そこで,発せられたのは意外な言葉であった。
 
 「開けないで捨ててもいいんですか?」

 聞くと、既に相続人である奥さんと子ども達で遺産分割についての協議はできている。遺言を開けても、もめるだけだという。

 奥さんが勝手に遺言を開けないで捨てることは当然,許されないし,そんなことをすれば一切の相続権を失う。また,遺言書は,発見した場合には,すぐに家庭裁判所に持っていき「検認」という手続きを受けなければいけない。違反すれば5万円以下の過料の制裁もある。
 しかし,相続人全員が同意していたら?法律には書いていないが,それはそれで許されることなのかもしれないと思い返答に悩んでしまった。

 結局、A氏がどのような気持ちで遺言を書いたのかと、その気持ちを尊重してほしいこと,家庭裁判所で検認の手続きを受けないと5万円以下の過料となる可能性があることだけを伝え、相続人全員の同意のもと遺言を開けないことが許されるのかについては回答をしなかった。

 遺言が開かれれば私が遺言執行者になるはずであった。
 しかし,いまだに私は遺言執行者になっていない。

 自分の応対は正しかったのか。いまだに悩んでいるところだ。

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posted by 内田清隆 at 10:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年05月29日

使いづらい廃除-遺留分を奪う方法2

 先日,遺留分を奪う裏技としての養子縁組を紹介した。

 遺留分を奪う方法として,そのような裏技以外に,法律にきちんと決められている方法がある。それが「廃除」である。

 相続人に「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」があった場合には,被相続人は「廃除」の請求を家庭裁判所にすることができる。そして,家庭裁判所が「廃除」の審判をすると,その相続人は,遺留分を完全に奪われ,まったく相続ができなくなるのである。

 例えば,親が次男から虐待を受けている場合でも,原則,長男に全財産を相続させることはできない。次男には,遺留分があるので,4分の1は相続させなければならないのだ,
 しかし,次男を「廃除」してしまえば,長男に全財産を相続させることが可能になるわけだ。


 相続欠格と異なり,不合理な制度ということはない。しかし,非常に使いづらい制度ではある。


 まず,相続欠格と同じ問題として,代襲相続がある。上記の例で,次男に子どもがいたとしよう。その場合に次男を廃除した場合には,次男には相続する権利は完全になくなる。  
 しかし,次男の子どもは,代襲相続により次男が持っていた遺留分を引き継ぐことになるのだ。したがって,次男の子どもに,4分の1を相続させなければならないのだ。これでは,次男を廃除する意味がない場合も少なくない。

 次の問題が,廃除請求のしづらさである。

 廃除請求を家庭裁判所にすると,家庭裁判所で,例えば,「虐待」があったかどうかにつき,関係者の事情聴取が行われ,関係書面が証拠として取り調べられ,裁判が行われる。
 遺留分を奪われる側も,奪われまいと一生懸命反論するのが一般的であり,その裁判は,大変なものになる。

 しかも,家庭裁判所の判断は厳しい。どの程度なら「虐待」等になるかは,ケースバイケースであるが,家庭裁判所は,なかなか「虐待」と認めてはくれない。そのため廃除を請求しても,認められないケースもたくさんある。

 虐待をしている子どもに対する裁判を起こすこと自体精神的に大きな負担である。しかも,その裁判が勝てるかどうか分からない大変な裁判であるとすれば,そんな裁判を起こすること自体,なかなかできるものではない。


 遺言により廃除を請求する方法もある。自分が生きている間に子どもに裁判をするのは精神的に大変だが,遺言による廃除ならばそのような問題はない。
 しかし,遺言による廃除には,別の大きな問題がある。それは,「本人が死亡していて,反論できない」ということだ。
 
 遺言による廃除の場合であっても,きちんとした裁判が行われる。その裁判で,虐待をしていた側は,「自分は,虐待はしていない。証拠にこのようなものがある」と主張するであろう。
 ところが,それに対して,反論をすべき本人が死亡しており,効果的な反論ができないのだ。そのような状況では,廃除を認めてもらうのは困難だ。


 つらいことがたくさんあり,悩みに悩んだすえに,「わが子にまったく相続させない」と決心するのが普通だ。その重い決心をもう少し尊重してもよいのではないだろうか?

 遺留分を奪う他の方法については,別の機会に説明していこう。

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posted by 内田清隆 at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2010年05月28日

遺言と異なる遺産分割の可否〜遺言を無視して遺産分割をされたくないが・・・。

 遺言があったとしても,相続人全員の同意があれば,遺言を無視して,遺言と異なる遺産分割をしても通常は問題がない。
 しかし,遺言執行者がいる場合には,相続人全員の同意があっても執行者を無視して,遺言と異なる遺産分割はできないのだ。

 長男に3分の2,次男に3分の1を相続させるという遺言があったとしよう。
 その場合でも,長男と次男が話し合い,長男が3分の1,次男が3分の2を相続するということに変更することも,遺言執行者がいなければ,許されている。
 よく考えれば自然なことで,仮に,許されないとしても,長男がまず3分2を相続して,その後次男に3分の1を贈与すれば同じことになるわけであり,それを許されないとする意味はあまりない。

 ところが,遺言執行者がいる場合には事情が異なる。その場合には,相続人だけで遺言と異なる遺産分割をしても有効にはならないのである。
 遺言執行者は,相続人全員が合意していても,遺言と異なる内容の遺産分割に合意することさえできないという裁判例もある。
 また,相続人らが遺言と異なる遺産分割協議をして,それに沿う登記をした場合には,執行者は,その登記の抹消を請求できるとする裁判例もある。
 このように,遺言執行者の権限は強大で,執行者がいれば遺言者の遺志は強く保護されるのだ。

 しかし,だから遺言執行者が選任されれば,自分の遺志は必ず守られると安心することはできない。
 遺言と異なる遺産分割が許されないとしても,先ほどの例のように相続と贈与を組み合わせることで,遺言と異なる遺産分割を許したのと同じ結果を生じさせることができてしまうのだ。
 
 さらに問題がある。相続人全員が遺言と異なる遺産分割をしようとしている場合には,遺言がきちんと開封されず,遺言執行者が選任されない可能性も高い。
 この場合には,法律的には,ともかく,実際的には,遺言と異なる遺産分割がされてしまい,誰かがそれに異議をいうことも難しいだろう。

 遺言者としては,自分の遺志を尊重して欲しいというのは当然の気持ちであろう。しかし,自分の死後のことである。相続人同士が理解しあい,仲良くやっていくというのであれば,自分の遺言が忠実に守られなくても,十分に幸せであると天国で考えるべきであろう。

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posted by 内田清隆 at 16:02| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐遺言

2010年05月26日

不合理な相続欠格制度〜結局代襲相続では・・

 めったにないことであり,ないに越したことはないが,相続欠格に関わる事件を取り扱ったことがある。

 相続欠格とは,民法891条が定めるもので,「故意に被相続人・を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 」等は,相続人となることができないという制度である。親を殺して親の財産を相続することは,誰が考えても正義に反する。それを防止するために,相続欠格という制度があると教えられた。

 ところが,実際の事件になって,相続欠格という制度は何とも中途半端で使えない制度であることが分かった。
 第一に,相続欠格が適用されるは,「故意に」「死亡するに至らせ」た場合,つまり,「殺人」や「殺人未遂」に限られるのだ。そのため,老親に食事を与えず,時々殴ったり蹴ったりするというひどい虐待を続けて親を死亡させたとしても,罪名が「殺人」「殺人未遂」でなく「傷害致死」であれば,親を死亡させた張本人が親の財産を相続できるのである。誰が見ても正義に反するであろう。虐待を続けられた親は,生きていれば,その子を相続人から廃除することができる。しかし,虐待を続けられ死んでしまった親は,その子に財産を相続させなければならなくなるのだ。なんと理不尽なことか。

 さらに,相続欠格制度には問題がある。親を殺した子が相続欠格となり,相続できないことになっても,親を殺した子に子がいた場合,つまり親の孫は,代襲相続権を失われないのである。
 A氏に子Bと子Cがいるとしよう。子BがA氏を殺した場合には,A氏の財産を子Bが相続することはできない。しかし,子Bに3歳の子どもがいたとすると,B氏が相続する分は,その3歳の子どもがすべて相続するのである。したがって,子Cとしては,子Bに相続欠格が認められようが認められまいが,相続分に変化はない。したがって,子Cとしては,相続欠格を主張しても意味がないのだ。
 実際に,裁判所で相手方の相続欠格を主張したところ,裁判官から「どうせ相手方が相続欠格になってもその息子が相続して,あなたの相続分は変わらないのだからいっしょでしょ」と言われたことがある。裁判官の言うとおりなのであるが,だとすれば,相続欠格とは何と意味のない制度であろうか。

 相続欠格については,法律改正が必要なことは明らかだ。

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posted by 内田清隆 at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 弁護士雑感

2010年05月24日

遺留分を減らすための養子縁組

 特定の者の遺留分を減らすためになされた養子縁組は有効であろうか?

 A氏には太郎と花子の二人の相続人がいる。A氏は太郎には全く財産を相続させたくなく,花子に全財産を相続させたいと考えていたとしよう。
 その場合,問題になるのが遺留分である。全財産を花子に相続させるという遺言を作成しても,太郎には遺留分が認められており,全財産の4分の1を相続する権利があるのである。
 子供については,その相続分の2分の1が遺留分となる。太郎の相続分は花子と同じ2分の1,したがって,遺留分は2分の1×2分の1=4分の1になるというわけだ。

 そこで考えられるのが,養子縁組である。A氏が花子の夫及びその子(つまり孫)2名の3名と養子縁組を結んだらどうなるであろうか。そうすると,A氏の子は5人になり,太郎の遺留分は5分の1×2分の1=10分の1まで減らすことができる。
 このような養子縁組は有効なのであろうか?

判例は分かれておりケースバイケースだ。
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/8593/1/No80p060.pdf
 多くの判例は,「精神的なつながりをつくる意思」があるのであれば,特定の人の相続分を害する意図があっても養子縁組は有効であるとする。一方で,「専ら」他の相続人の遺留分を減らす意図でなされた養子縁組はその効力を否定すべきとされている。
 問題は,どのような場合,「精神的なつながりをつくる意思」が認められるかであるが,「精神的なつながりをつくる意思」などという目に見えないものを証明することは非常に困難だ。
 防御策としては,
  養子縁組した者にも一定程度相続させる,
  養子との間で相互扶助の約束など精神的なつながりを作る意図を書面にしておく
  同居をしてお父さんと呼ばせる
  姓を変更させる
など色々考えられるが,どうすれば,大丈夫というのは決まっていない。
 いずれにせよ太郎は,A氏が亡くなって初めて,花子のほかに3人も兄弟ができていることを知るのである。もめるのは必至,結構リスキーな方法である。

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posted by 内田清隆 at 19:26| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2010年05月23日

相続でどれだけ遺産がもらえるの?その3−例外A寄与分と特別受益

 子供二人が相続人であれば遺言がなければ相続分は2分の1ずつ、それが原則である。

 しかし、長男は親の事業を給料ももらわずに支え続け親の事業を成功させるのに大きく貢献した。一方、次男は独立資金として結婚にあたり二千万円を親から出してもらい、ろくな親孝行は全くしなかった。
 こんな兄弟の相続分が同じでは納得できないだろう。そんなときに出てくるのが「特別受益」と「寄与分」だ。

 上の長男のように相続財産を増やすことに努力し寄与した者は、その分基本の相続分より多くの相続が認められる。それが寄与分である。
一方、上の次男のように、相続する親から生前、特別な利益を得ていた者は、その分基本の相続分より少ない相続しか認められない、それが特別受益である。

 寄与分や特別受益については、その範囲、どう金銭的に評価するのか、両者の関係など法律にきちんと定めがなく、判例もはっきりしないことがたくさんある。しかし、重要なことは細かいところではなく、遺言がなくても公平の観点から相続財産を増やしたことや減らしたことは評価され、基本は修正されるということだ。

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posted by 内田清隆 at 11:15| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2010年05月22日

相続でどれだけ遺産がもらえるの?その2−例外 非嫡出子・放棄等

前回http://uchidasouzoku.sblo.jp/article/38382143.html説明した相続分に関する基本の例外としては, 
 「寄与分」 
 「特別受益」 
 「非嫡出子の相続分」 
 「相続放棄・欠格・廃除」
などがある。重要な「寄与分」と「特別受益」については,次回以降に説明するとして,その他の例外を説明しよう。

 前回,子供間,親間,兄弟間の相続分は平等であると説明した。しかし,唯一の例外として非嫡出子(きちんと結婚していないでできた子)がある。非嫡出子の相続分は,嫡出子(きちんと結婚してできた子)の相続分の半分である(なお,憲法の定める平等原則違反であるとの指摘も強く近く法改正になりそうだ。)

 ほかに基本の例外として,本来は相続人であるにもかかわらず相続人としての地位から外れる「放棄」「廃除」「欠格」がある。
 よくあるのは相続放棄だ。本来は相続人は奥さんと子ども二人だとしても,子どもの一人が「自分は相続しません」という相続放棄を家庭裁判所にすると相続人としての地位から外れる。その結果,奥さんと子ども一人だけが相続人となり,4分の1であった子どもの相続分は,2分の1となるのである。
 それ以外にめったにないが,相続人としての地位から外れる場合として,親を虐待した場合にありうる「廃除」や,親を殺した場合にありうる「欠格」がある。

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posted by 内田清隆 at 09:50| Comment(0) | TrackBack(0) | よくあるご質問‐相続

2010年05月21日

相続でどれだけ遺産がもらえるの?その1−基本

 相続で相続人が取得できる遺産の額は,遺言があれば遺言によって定められる。遺言がない場合には話合いで決まる。法律上,様々な規則があるが,ともかく原則は遺言又は話合いで決まるということが忘れられがちである。法律の規定は,遺言がなく,話合いもつかない特殊なケースにおいて適用されるのである。

 さて,その場合に適用となる民法の規定であるが,概要を説明すると以下の通りである。(被相続人とは亡くなられた人,子,配偶者などは被相続人から見ての呼び方である。)

1 子供がいる場合
  配偶者がいれば,配偶者が2分の1,子供が2分の1,配偶者がいなければ子供だけが相続する。

2 子供がいないで,配偶者もいない場合
  親がいれば親だけが相続人,親がいなくて兄弟がいれば兄弟だけが相続人となる。

3 子どもがいないで配偶者がいる場合
 親がいる場合は,配偶者が3分の2,親が3分の1を
 親がいない場合は,配偶者が4分の3,兄弟が4分の1
を相続する。
 なお,子供間,親間,兄弟間の相続分は平等であり,また,相続人となるべき子又は兄弟が被相続人死亡時に既に死亡している場合は,その子が代襲相続することになる。
 
 以上が,基本である。

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2010年05月20日

心配性の遺言者

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】
 将来何が起こるかわからない。だから,万が一のことをも考えて,遺言を作成すべきであると,弁護士は常々アドバイスする。実際に,予想もしなかったできごとが発生し,相続において,大変な問題となることも少なくないのだ。
 ところが,そんな弁護士の目から見ても,心配しすぎなのではないかと思う遺言を作成したことがあった。

 遺言者は91歳で,入院中であった。娘に預貯金を,息子に不動産を相続させるという遺言を希望していた。

 遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘や息子が亡くなったらどうなるのですか?」
 91歳の遺言者より先に娘や息子がなくなる可能性は少ない。しかし,心配するに越したことはないので,その場合にどうするのかを遺言することにした。

 さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘と息子が二人とも亡くなったらどうなるのですか?」
 そんなことはさすがにないだろうと思ったが,万が一を心配するのが弁護士だ。その場合には,4人の孫の内,2人が不動産を,もう2人が預貯金を相続するという内容の遺言をすることにした。

 さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘も息子も孫の一人も亡くなったらどうなるのですか?」
 それはさすがに心配しすぎだと思ったが,心配しすぎで悪いことはないだろうと考え,その場合にどうするのかも遺言することにした。

さらに遺言者は,こう言った。
「自分より先に娘と息子と孫4人全員が亡くなったらどうなるのですか?」


それは心配しすぎでは・・・・・・・・・・。

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posted by 内田清隆 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から

2010年05月19日

遺留分を侵害する遺言

【事例は,個人特定防止のためデフォルメされています】
 一代で従業員100名ほどの会社を作り上げたA氏であったが一つ悩みがあった。社長である長男中心の金沢本社と専務である長女の夫中心の福井支店が激しく対立をしており,事業承継が円滑にいかないのである。そのA氏から,二人が相続争いをせず,会社も上手く継続するような遺言を作成したいという相談を受けた。
 A氏には,さらに会社経営に関わっていない次女と三女がいた。

 A氏から相談を受けて,すぐに私が考えたのが,「会社分割」をしてしまう方法であった。会社法改正で手続きとしては簡単になった。しかし,A氏は自分が築き上げた会社を二つに割ることはどうしても避けたいし,分割したら生き残っていくだけの体力が会社にはないと言う。

 相続財産の大部分は会社の株式,それ以外に1500万円ほどの預貯金があった。まずは,相続税評価基準に基づき株式の価格を算定すると8000万円以上の評価となった。相続税対策を進めなければいけないところであるが,残念ながらその時間はなかった。

 会社経営と関係していない次女,三女にとって,誰かに売れるわけでもない中小企業の株式を相続することには何の価値もない。しかも,次女,三女にも株式を相続させれば,これ以上に会社がもめる可能性がある。しかしながら,会社の株式以外に財産がほとんどなく,これを次女・三女に相続させないとすると遺留分を侵害してしまう恐れがあるという困った状態であった。

 最終的には,次女・三女に関しては,思い切って遺留分を侵害する遺言を作成することにした。弁護士が遺言執行者になり,きちんと説明をすれば,現金以外に株式の取得を求めることはないだろうという読みだ。
 幸いにして,この読みは当たり,遺留分を侵害されている次女や三女から後々文句が出ることはなかった。

 長男と長女の夫の問題に関しては,A氏と何度も相談を重ねたあげく長男には株式の60%,長女には少数株主権を越える40%の株式と現金を少々を相続させることにした。
 残念ながら,うまくいったとはいいがたい。長男と長女は納得せず,色々な争いを起こし,長男と長女の関係は,いっそう悪化してしまった。
 それでも,何とか会社は,分割せずに一つで頑張っている。それを見てA氏は天国で満足しているだろう。遺言を作っていなければもっとずっと大変なことになっていた。そう思えば,例え息子と娘のケンカをおさめることができなくても,A氏は,遺言を作成してよかったのだろうと思う。
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posted by 内田清隆 at 07:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 取扱事例から